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. 血で真っ赤に染まったかもめが目の前の波に浮かんでいる。
. おそらく急降下した時に車にでも衝突したのだろう。
. 夢ではなく現実の路子の友だち、伸子の弟の錦田 光(にしきだ ひか
り15才)は友だちの鷲見 崇(すみ たかし15才)と横須賀のトワイライ
トな潜水艦が停泊する港近くの公園で、学校帰りの決まった曜日の決まっ
た時間に落ち合うのが習慣だった。
. 同じ中学へ通っていた2人は家も近くだったが学級が違うため、幼馴染
みの友情と、異性に心が傾いてしまう僅かな貴重な時期を、少年同志の共
通語であるスポーツやラジコンやエアガンの用語で話して“夕食にギリギ
リの帰宅”までの時間を過ごした。
. 特に初夏の金曜日の夕暮れは、何だか何時もより時間が間延びしてい
て、遠くで町の与太者達が海に向かってロケット花火を発射する音が時々
聞こえて来た。
. ドックでは錆びた貨物船の修理の火花が発光する滝となって流れ落ち、
空は真珠貝の裏側のようになり、曳航される巡洋艦は巨大な動くキャッ
スルとして機能しだした。
. 何処かで戦争が起動し始めたのだ。
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. 「ねぇ、錦田。 俺の部屋にHOゲージの小さなジオラマがあったろ、あ
れね、今度新しく作り直したんだ。おやじが誕生日にレール・ツェッぺリ
ンを買ってくれたのを切っ掛けにね。ちょっと未来風にね。レール・ツェ
ッぺリンがレトロな勘違いの未来風だろ、それに合わせてね。
. どう明日にでも見に来ないかい?一寸自信があるんでね。未来の街の作
り物には。」
. 「ああ、でもなぁ〜。 明日うちのおやじの掘り出した未来考古学の展
覧会の初日で、うちは“家族そろってのお出かけ”というやつさ。
. 悪いけどきみの家には行けそうもないな。あっ、そう、どうきみも一緒
に行かないか?大人達のオープニングパーティーに紛れ込むのも悪くない
ぜ、たまには。それにスレてない可愛い子も見かけるしな。上玉の。」
. 「へぇ〜それもいいかな。ビールくらい飲んでも大目にみてくれそうだ
しな。」
. 「そりゃあそうさ、鷲見。 私服さえ着ていればぼくらは十分大人だか
らね。」
. 光と崇は大人の定義も曖昧なままに、自分達はもう十分大人なんだと思
いながら公園の入口にでていたクレープ屋の屋台から買って来たソフトク
リームを舐めながら話し込んだ。
. 「錦田、お前、大人って仕事して酒飲んで、セックスする奴らだと思っ
ていないかい。 それは違うよ。大人っていうのは子供が可愛いと思う心
の事だよ。」
. 崇は時々鋭い事を言う所があった。
. 横須賀の旧商店街の坂の中間にある祭りの用品を扱う老舗を経営してい
る父親の血を引いたのか、中学生にしては世間を客観していた。祭りの終
わった後のけだるい日常を商っているような店の雰囲気を会話に持ち込ん
だ。
. 貧乏学者の家の光とは水と油のような家庭環境の違いだったが、そこが
又光には面白かった。
. 彼が崇の家へ行くと来年の祭りのために作りかけた神輿の骨組みや大太
鼓の鞣した皮や、御幣のイカめいた紙細工などが散乱していて、若い番頭
さんが忙しくもないのにそれらしく駆けずり回っていた。
. 昼食の大女将さんの作ってくれる鉄火ドンやイカ天そばを5人の社員が
音も無く黙々と食べているシーンに光は何度も出くわした。時々、一緒に
食べるように誘われたが咽が詰まりそうで遠慮した。
. 「ああ、これが世間と言うものだろうな。」
. 早合点した世間感を光は、その時から修正していない。
.. 「大人の話しはこれくらいにして、とにかく明日はお前と行ってみよう
かな。面白そうだしね、未来考古学って。」
. 「そうだよ、面白いさきっとお前には、俺には見なれているけどね。午
後一の駅の改札の前に家族と一緒にいるからな。5分以上は待たないから
な。」
. 「分かった、分かった。」
. そう言って2人は別れた。夕食の時間が近付いたのだ。
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. 港は夕涼みにはうってつけだったが、そろそろ怪し気な長い影がギザギ
ザ屋根の倉庫に映って走り回る頃合になった。
. かもめ達も何時の間にかいなくなった。
. 次の朝、錦田の家族、即ち父と母、伸子と光それに崇は上野の森の博物
館の“大そらしま展”へ行くため、京急電車に乗り品川で山の手線に乗り
換え上野まで向かった。
. 崇は移動中にとなりに座っている光の父親、錦田探(さぐる38才)に予
てから理解できなかった未来考古学とやらの成り立ちを聞いてみようと思
った。
. だいたいこの小説的現実の設定が夢よりも夢で成り立っていて、現実で
の夢も、夢の中の夢も区別が付かなくなり、遂にはその空間も時間も渾沌
として来て、崇はこのままでは何時か自分も夢である夢に吸収されて寝入
ってしまいそうだったから。
. 「崇君、そうだね簡単に言うとそれは“むかしむかし、ある所に”とか
“今は考えもつかない遥か未来に”などと言う今を両方持っている私達の
この小説的現実は、未来も過去のようにすでに決定していて、そこから発
掘されるオブジェによって今を検証、修正して悪い方向へみんなが行か
ないように天気予報のように警告する学問さ。
. そうは言っても今と言うものは完全に固定されたものではないので、発
掘された物は半透明でスケルトンなイカのような形態をしていて、水槽の
中で特殊な溶液に着けておかないと我々の今の作り方によってはその形を
変化させるので、それによって又、現実予報も変わってきて『いつも当ら
ない予報』として有名で『いいよな、公務員は、お気楽で、民間だったら
とっくに首だぜ。』と言う世間の嫉妬じみた批判にいつもさらされている
と言う訳さ。」
. 「へぇ〜、ずいぶん僕が見ていたよりも広範囲な学問ですね。
. 骨董屋が過去だけの物品では限界があるんで始めた商売かと思っていま
した。」
. 探もこの生意気盛りの中学生に手を焼きつつも、
. 「ばかいっちゃあいけない、この頃ではもう宇宙のように、時間も始ま
りと終わりが繋がっているとする説が有力で、心の果てと宇宙の果てが繋
がっているように、想像とリアルも繋がっている山手線で、日暮里の駅か
らどちらに行こうと何時かは上野に着くといったぐわいさ。」
. そんな事を話している内に電車は文字通り上野に停車した。
. 公園口の改札から出て噴水の方向へ向かった崇と光の家族は人なれた鳩
の群れが、始めは面白がって餌をやっていた女の子の頭にまとわりつきだ
して、やがて恐怖し泣きじゃくっているのを横目に見て、イカ焼きの屋台
が並ぶ“照りのある赤黒い悪魔の子”の死体を面白がって、おやじの迷惑
そうな雰囲気も跳ねのけ、シャッターを押し続ける白人観光客などを笑い
ながら博物館の入口に辿り着いたのだった。
. みんなは入口で父親の見せたフリーパスのIDカードによって入場して、
順路にそって蟹の家族のように横歩きで移動していたのだ。
. 探は夢中になって自分の掘り出した物が如何に凄いものかを説明しだし
た。
. 「いいかい伸子、未来と言うものは我々の今までの歴史年表の中に隠さ
れた対象軸を中心に鏡合わせのように折り畳まれ、過去が反転した未来に
なっているのだ。だから、未来を予測することは可能なんだけど、その対
称軸も地球の地軸のように揺れ動いているので、その誤差が誤謬になって
色んな未来が出来てしまうんだ。」
. 「へぇ〜。」
. 姉の伸子もあまり興味がないらしく気の抜けた返事をした。
. その家族の秩序も割り込んで来た図々しいおばさんや、微動だにしない
丸めがねの町学者などによてバラバラになり、それぞれが個人の趣味の方
向へとちりじりとなっていった。
. 崇は独りになって、しばらくガラスに鼻のあとをスタンプしながら自分
の興味を引くものを探し出そうとしていたが、やっぱりどうにもこういっ
たものには興味が湧かず、早くパーティーの大人達の中に紛れ込んで、ビ
ールを飲みながら女の子でも物色したかった。
. 中央に設置された黒皮貼りの長椅子にだらしなく座った崇は、ひと気の
ないコーナーのガラスケースの辺りが、さっきから妙に光り輝いているの
に気が着いた。始めは気のせいだと思ったのだが何度見てもその雰囲気が
変わらないので崇は凛として立ち上がり、その方向へ進寄った。
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. そこには少女のミイラがあった。
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