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. 「あら、おばあさんって、随分うんちくがおありですね。」
. 路子の母がお世辞めいた事を言った。
. 「うん、なかなか教養と知識がおありでビジネスパートナーとしては適任です
よ。どうです今度一緒に食事でもしませんか。しかし、その錬金術とビジネスはど
ういう関係があるんでしょうか?」
. 親父がすかさず商売ッ気を見せた。

. 「それは文字通りです。お金をつくり出すんです。
. 何処にでもある素材、ニグレイド(土、渾沌)を店や会社や工場と言う炉に入れ
てイメージや知で変成し、デザインや機能性の添加物を加え、催眠力でブームに火
を付ける訳ですね。ブームの持続性はその商品純度と麻薬性による訳です。不純物
がないほど永く燃え依存度が高いのです。」
. 「なるほど。」
. おばあさんは軽く受け流し、作り物の火星が、ゆらゆら電車の風圧で揺れるを眺
めている。
. 岡部さんは過ぎ去って行く後ろの風景に目を光らせていた。
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. その時 「ガッ、ガッ、ガリガリガリ〜ン。」と電車が衝撃と供に停止した。
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. 岡部さんはあたふたと窓から顔を突き出して線路を見ている。
. 「あぶないと思っていたんですよ。この前もここで脱線したんです。」
. 「あらあら、やっぱり今夜は徹夜かしらね。」
. 母親が溜め息まじりでそう言ったので、みんな又疲れているのを思い出した。
. 岡部さんは外に出て車両の周りを駆け回っている。
. おばあさんの話しも脱線して有らぬ方向へ走り出していた。
.「火星といえば今の2003年は600年周期の近場にお目見えだけど『なんだ、なに
もないじゃない』と思ってはいけませんよ。この前の惑星直列だってみんなの心が
気づか無い間に、大改革されてこんなに急に世の中変わったんですからね。
. 人がなにもしなくても革命的な事が自然に起りはじめるんです。心の中で夢を見
させる映像編集ソフトウェアーのオートマチィックなキャラクター設定機能である
集合的無意識に直接影響して変革するんですよ、星という物は。」
. 「へぇ〜、そんなもんですかね。」
. 親父が相づちを打ち、
. 「ええ、それに人の深い所の無意識は言葉や時空を超えてWebのように繋がって
いますからね。
. おっと、間違えました、Webがその事をまねしたんでした。Webは集合的無意識
をリアル上に計らずも再現してしまったんです。」
. なんだか、おばあさんの話しはとてつも無く難しい佳境に入って来た。
. 岡部さんは一人で車両に備え付けのジャッキで電車を線路にはめ込もうとしてい
たのを父親が見つけて手伝いに外に出た。
. 路子と私は、おばあさんの話しが一段落したところで一緒に車両から出て辺りを
少し歩いてみた。
. 月世界探検と書かれた看板の下の切符の改札口のようなボックスのを通り抜け
て、夜の遊園地の薄暗がりの中を見渡すとセメントで作られた、月の表面にクネク
ネと溝が延びていて、プラットホームにバイクスタイルのライドが埃を冠ってとま
っていた。
. 「みっちゃん、乗ってみない?」
. 「あら、面白そう。」

. 路子もそう言うので改札ボックスの中の電源スライダーをオンにしてみた。
. ライドのバイクはブルブルと震え出した。
路子と私は馬乗りになってハンドルのアクセルを回すと、自動的にヘッドライト
が点灯し、バイクはバババババッと人工的な音を立て溝に沿って動きだした。
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. 「お客さん、困りますよ!!」
. 後ろで岡部さんの声が聞こえた。
我々は構わずそのまま走り去る。
. どうせレールにくっ付いたライドなんだし、危険度は少ないと思ったからだ。
バイクは月の上をグラグラと蛇行して隕石痕を除けながら進んで行く。
. 途中でライドは止まったように感じたが月面は動いている。
. おそらく床に映った映像だけが移動していて我々は固定されているのかも知れな
い。暗いからはっきり区別がつかないのだ。それに映像も上下にズームして我々は
空中に浮いているような気になっていたかと思うと叉、月面に着地した。
. 「わぁ〜素敵。ほんとうに。」
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. 路子がうっとりと感嘆したので何気なく月面を見ると、今までモノトーンだった
クレーターや谷のシャープな影が虹色の光彩を放ち、その境目の輪郭線は、あんど
んクラゲのように細かな移動する光りでチカチカと装飾されていたのだ。
. しかし、全体はどうしようもなく、嘘っぽい人工性が支配しており、私は路子の
ようには感動できなかったが、逆にそのことのほうが昔から自分に取り憑いている
嗜好だと思えた。
. そもそも私のその好みは何処から来たのだろう。
. 自然の山々より模型電車の走るジオラマの方に惹かれる感覚は、子供の頃の玩具
への愛着を捨てられずに来てしまった幼稚な、隠すべきセンスなんだろうか?
. その答えは最近になってやっと分かった。
. それはにせものを表明しているものへの愛なのだ。
. それは色即是空な美に他なら無かった。
. 私の嗜好はすべてそこへと帰着した。
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