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. すこし風が出て来た。
. 私は先ほどから風邪をひいた時のように暑いのか寒いのか分らなくなっていた。
おばあさんは家の方へ戻りだしたので私もあとに続いた。
. 家の中の壁はまだ鱗状に見えた。遠くから改めて見てみると全体の壁の染みが繋
がって、一つの大きな消えかかった蛇に見える。蛇は錬金術でもよく出て来る象徴
だ。ウロボロスと言って自らの尾を噛む蛇だ。それは消えてしまう事を意味するの
だ。
. 台所と居間を遮る衝立にちょっとここには不釣り合いでいて和風には合う、禅寺
でよく見かけるような円い文字を書いた書のようなものがあった。
. 「ああこれは -中心が何処にでもあって、周辺が何処にも無い円- ですよ。
. 禅では円相とかいっていますね、錬金術でもよく使う観念です。
. 錬金術は西洋ではバラ十字団やフリーメーソンに変化して行ってアメリカ国家を
創る時のコンセプトにも導入されています。ドル札の裏の目のあるピラミッドは有
名ですよね。、
. 中国では道教になったんです。
. 道教(TAO)は仙道に俗化して不老長寿の妙薬で有名になったけど、中国では錬金
術師とは仙人の事だったのよ。」
. 「なるほど、それは分りやすくて錬金術が一ぺんに分かった様な気がして来まし
た。そうすると、まどかさんは女仙人でえすね。」
. 「まあそんな所ね。それでその不老不死の薬を水銀だと思い、古墳の中に水銀の
池まで造って、それを度々飲んでいた皇帝もいたくらいで、俗人はその霊力を信じ
込んだのよ。かえってそのために早死にしましたけどね。」
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. 「ピロピロピロピロ〜」
. 突然、私の携帯が鳴った。
. 「すいません。ちょっと失礼。 はいはい。綿志です。だれ?」
. 「あのぅ、路子ですが。」
. 「ああ。みちゃん、どうしたの?」
. 「あのね、しまさんに借りていたパソコンに私の“バラの花のCG”のファイルが
あるの。明日の大学の授業に使うものだから、悪いんだけど大急ぎで携帯つないで
飛ばしてくれないかな。」
. 「わかた、わかった、そうしてあげるけど、今おばあさんの所で大変な事になっ
てて、帰ったら話すけど、とりあえず今はこれで切るからね。」
. 「ええ、よろしくね。それにしても大丈夫なの?」
. 「大丈夫、大丈夫。危険な事じゃないんだから。」
. 「そう。それじゃあ宜しくね。」
. 「ピッ。」
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. 「すいません。従妹からでしてね。
ところで日本の錬金術師なんて有名な人がいるんでしょうか。あまり聞きません
が。」
. 「そうね、日本ではみんな仏教僧か山伏になったからね。
. みんなの知っているのは、日本のレオナルド・ダ・ビンチィのような空海。
. 空海は世渡り上手で、中国に留学して道教に近い仏教、密教を学んだけれど、そ
れはインドに渡った錬金術がタントラ教になって変化したもので、錬金術師といえ
るの。
. 日本中の山々を歩き回って鉱物を探すために穴を掘り捲り、井戸や温泉を見つけ
て民衆には大変な功績を残したので有名になったわねぇ。
. 四国や高野山を曼陀羅(脳の輪切りマップ)に見立てて精神的なテーマパークに
仕立てなおしたの。
. それは夢をリアルに持ち上げる事だから錬金術なんです。
. それ以降の無名の山伏達にも偉大な人達が沢山いたんだけど、錬金術師は今でも
そうだけど無名性を大切にしたんで、個人の事は分らないわね。
. 一体、個人の名前にどれほどの意味があるでしょう。1000年もたてば。」
. 「なるほど。」
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. 「さあさあ、もうこの辺で、あなたも少しは錬金術の構造がお分かりでしょう。
あとは、すべて先程のコツを適用すればすむ事ですよ。」
. 「ところで、まどかさん、その“賢者の石”とかは見つかったんでしょうか?
. 発見され、製造されたのであれば是非、私にも見せて頂けませんか。」
. 「あらあら、やっぱりそれは御自分でお見つけになるものですよ。
. でも、あなたの、これからの精進のために、ほんとうにそれが有る事を、お見せ
しておきましょう。」
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. そういうと、おばあさんは、両手を私の前に水でも受けているように差し出し
て、パッと掌を離した。
. 私は水が床にでも零れ落ちたかのように床を見る。
. そして、二人、目を合わせて笑った。
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. やはり、おばあさんの言っていた事は本当だったのだ。
. つまり、世界中どこへ行っても真理と名の付くものは先程床に落ちたものが元に
なっていて、何も難しいものなど無く、ただその名称や応用の違いで様々な方法が
生まれて来ただけなのだ。
. 「まどかさんは、鍛冶屋さんでは無い訳ですね。私を合成してたんですね。」
. 「はっはっはっ。 やっぱりあなたは物わかりがいい。そうそう、今日の訪問の記念
にこれを差し上げますから、おうちでこれからの精進の参考になさいな。」
. そう言ってタワータイプのパソコンの横から一枚のCD-ROMのケースをくれた。そして
. 「さぁさぁ、そろそろ、こちらへ、こちらへどうぞ。」
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. おばあさんはお勝手の土間の方へ向かった。
. その奥の土間の床に古びた板があって、それをずらしたところに見えて来たのは
土で固められた階段で、下の方に光りが見えた。
. 私はおばあさんに続いてそれを降り、真ん中の踊り場を過ぎて光りまであと少し
の所まで来た。
. 「あっつ。」
. そこに見えて来たのは、何と地下鉄の駅だったのだ。
. 何事も無いようにホームまで来たおばあさんに付いて私は、ちょうど入り込んで
きた電車に乗ってしまったのだ。
. 「うっつ。」
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. その車両には路子達家族が乗っていて、私と反対側の席に座ったおばあさんは
. 「醒めて、すっかり忘れろ!!」
. と言ったのだ。
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..
..
おわり
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