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. 路子はオープニングパーティーの飲み散らかった紙コップの後片付けをしてい
た。
. 私はみんなが引けるまで地下に映した花火のプロジェクターをロッカーまで運ん
でいた。
. こうして、路子の母の生け花と書の個展は終わり、パーティーに集まったゲスト
達も地下の駅に繋がったこの倉庫のような会場から電車に乗り帰っていった。
. 残った私達4人もそろそろ帰り支度を始めていた。
. 「お疲れ、お疲れ、しま君。御苦労さん。今晩はうちへ来て祝杯でも上げて泊ま
っていきなさいよ。」
. 路子の父が私に声をかけた。
. 「そうよ、そうしてよ。」
. 母親もそう言うので何時もの事だがそうする事にした。
. 携帯の待ち受け画面の時計を見ると10時半だったので随分遅くなってしまった。
. 路子の家と私の家は同じ郊外の市内だったので、帰ろうと思えば帰れたのだが、
独り者の私は度々従妹の路子の家に泊まっていた。何しろ母親は料理がとても上手
かったからだ。
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. 我々は終電の時間も有るので急いで地下鉄の駅に向かった。
. 4人が駅に着いて切符を買っている時と同時に終電が滑り込んで来た。
. 急いで階段を駆け降り車両に乗り込む。
. と同時に腰の曲ったばぁさんも息をハァハァいわせて我々と一緒に滑り込んで来
た。
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. 出発した電車の中で我々とばぁさんは向き合い、息をハァハァいわせて座ってい
る。それはシンクロして、やがてみんなの呼吸は同じリズムで一体化する。
. その事に路子の母がくすっと笑った。
. 電車の電源の接続が途切れてバチッ, バチッ, バチッ, とスパークして車内の明か
りが消えると同時に青白い光に置き換わる。
この電車は来る時のと違い消音装置はかけられていないようだ。
. 我々は普通に話しが出来たから。
. オレンジ色のバツの標識や、青のシグナルの光りがスローモーションのように過
ぎ去る。
. 我々はまだハァハァいったままだ。
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. 「鳥になれ!!」
. その時、絶妙なタイミングでばあさんがそう言ったのだ。
. 路子と父親は座席から立ち上がり両手を広げて鳥になっている。
. 私と母親はそのままだ。
. 他に乗客も居ないので私はそのまま見ていた。
. 母親は立ち上がった父親のスーツの裾を引っ張て座らせようとする。
. 父親は硬直したように動かず、腕だけをふわふわ鳥のように動かしている。
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. 「座って、醒めろ!!」
. ばぁさんがそう言うと路子と父親は何事も無かったように座ってキョトンとして
いる。
. 「あらあら、すいませんね。突然、叫んでしまったので。そんなつもりは無かっ
たんですけど。いえね、いま鳥の沢山出て来る映画を見て来たばかりで、まだイメ
ージが残っていてついつい、口に出てしまいました。ごめんなさいね、そこの旦那
さんとお嬢さん。」
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. 路子と父親は、まだキョトンとしたままだ。
. 特に変化の無かった私と母親は顔を見合わせて笑ってしまった。
. 「おばあさん、今のは催眠術ですかね。
. こんな状況で出来るのは、相当な達人ですね。それも下ごしらえ無しで。」
. 予てから催眠に興味を持っていた私はそう尋ねた。
. 「いえいえ、ごめんなさいね。かけるつもりは無かったんですけど。こんな技法
は大したものではないんです。単なる副産物です。」
. 「副産物ってなにのですか?」
. 「はいはい、それは私の研究で、つまり、その、なんです、錬金術を少しばかり
勉強してまして、はい。」
. 「錬金術・・・・・・・・。」
. 私と母親は又顔を見合わせた。この思ってもみない古めかしい言葉に驚いたの
だ。
. それにそんなものを今どき研究している人が居るという事にもびっくりしたの
だ。
. 錬金術といえば昔のヨーロッパでの科学の元のような秘密研究文化で、それより
前にはスペイン、ギリシャを経由して、はるかエジプトの閻魔大王の秘書をやって
いた神さんトート(ヘルメス)の教えてくれた密儀(タロット)が変化したもの
だ。
. 一般には人工的に金を造る方法の研究として誤解され広まったが、それはまだ物
質と精神がはっきり別れていない時代、フロイトやユングのいない時の無意識、夢
の研究だったのだ。
. 無意識なカオスから掘り出される“哲学者の石”を探す事が最終目的とされ、そ
れらの研究過程は秘密主義な寓話や寓意でのイラストで伝承されたので、いよいよ
誤解を招いたのだ。今も昔も真理は危険だと言う考え方があり、限られた者達にし
か、それを開示しない、と言う密教的なコンセプトは自然に秘密結社を形成する。
. しかし私は、今も昔も真理なんて解る人達が世界に一体、何人いるのかと疑問に
思う。まして字も読めない人が大半で今の人口の1/10の大昔にだ。わざわざ、そ
んなものを隠す必要があったのだろうか。
. 或いは本当は、それは自分達を守るための方法だったに違い無く、生活から遊離
した純粋研究のための共同体を維持するための砦の制作だったのだろう。
. だが副産物の悪用は確かにあり得るのだ。
この時、偶然にも生まれてしまった薬物や金属は文明の進歩発展に帰依したと同
時に戦争の役にもたったのだ。
. 「あの〜、ぶしつけで失礼なんですか、おばあさんはどちらにお住まいなんです
か?」
. 「はい、この電車を郊外電車に乗り換え、終点の山の駅から20分位入った山の中
の農家の家を借りて住んでいます。」
. 「ああ、あの辺は山歩きでよく行きます。御迷惑でなければ今度行った時、一度
お寄りしてもいいですか。錬金術って、非常に興味があります。」
. 「おにいさん、それは少しバランスが悪いです。今の人はみんなそうだけど、自
分のメリットでしか話しをしません。あなたに来てもらうと私に何か好い事でもあ
りますか?あなたは何かお土産をお持ちですか?」
. 「お土産? そう、そうですね。何か必要な物でもあれば言って下さい。」
. 「いいえ、そうではなく、あなたがいらっしゃる事で私に新しい情報やセンスや
生命力がもたらされるでしょうか。錬金術師は昔から災いを避けるために最小の人
間としか付き合わないのです。」
. 「・・・・・・・・?」
. そう言われると益々行ってみたくなって来た私は、
. 「あっ、そうそう私、パソコンが少々出来ます。少しはお役に立てると思います
が。」
. と、言ってみた。
. 「そう、それは結構。じゃぁ、いらっしゃい。山の駅の改札で山羊のばあさんと
言えば分るから。」
. 「さっそく、明日でもいいですか。」
. 「いいですよ。夕方なら。」
. 「そうですか、楽しみにしています。我々も次の駅で乗り換えです。」
. そう言った私達はつぎの駅で乗り換える時、おばあさんとははぐれてしまった。
. そして4人で郊外電車のいつもの駅で降り、暗い街灯の並んだ夜道を帰宅したの
だった。
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. 私以外はあまりおばあさんに興味が無いようで、催眠にかかった事も忘れて他の
話をしていた。
. 路子の家で4人で祝杯を上げ、4人とも個展の疲れからか早々と眠りについた。
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