ゆめつなぎ3 - 燐粉パジャマ1 by そらしま

. 飛行機が今、ぶつかって落ちた。 . 青と白のツートンの春先の空に、黒い飛行機のシルエットが、だ んだん増え続けて、遂に空は飛行機柄の子供用パジャマのようにな ってしまった。 . その中の一組が衝突したのだ。 . 白い筋を絡ませながら二つの黒い塊が落ちて行った。 . しかし、この町を飛んでいるのは無人偵察機で人命の失われる心 配はない。 私は. ノレーノ駅のラーメン町の角に立って携帯電話のボタンを押 そうとしていた。 . 商売の店をそのままにして、気のきいたウェートレスも捜さない まま、私は長い間、現実離れした夢を見続けていたために生活にも 事欠くようになり、なにか適当な仕事する必要があった。 . 路個もあれ以来、働く事も学校へ行く事も無く、熱心に父親の介 護をしているようで、周りの人達も彼女の食いぶち位なんでもない ようすで、路個の家はだんだんと新興宗教教団のようになって来て いた。 . 路個の母親は、何処かいい所へ行ってしまった父親にみきりを付 けて、テキヤの親方の所にいる事を路個から聞いていた私は、様子 を見て来るように頼まれていたのと、自分の仕事の口でも捜すつも りで、母親に連絡をとって、逢う事にしたのだ。 . 母親とはあまり話した事も無かったが、前に一緒に滝まで行った 時は、父親の介添えを如才なくこなしていて、白いきつね顔の和服 の似合う、あねさんタイプだったので、そういった環境にもハマッ テいるような気がした。 .. 私は駅前から携帯電話の地図検索で親方の家を探り当てた。. 母親と親方はラーメン町の一角の長屋で私が来るのを待ってい た。私は夕暮れ近くのチャルメラが鳴り響く中、その長屋を尋ね た。 . 「お前さんかね、こいつの知り合いというのは。」 . 「はい。路個ちゃんの友人でして。」 . 「ふぅ〜ん、それで、この仕事やってみたいの?」 . 「ええ、なんか面白そうで。」 . 「まあ、面白いといえば面白いし、面白くないといえば面白くねぇ な。」 . 「と言う事は、私しだいと言う事ですか、親方。」 . 「まあ、気の持ちようだな。」 . 「それで、どんな物を売るんでしょうか。」 . 「うん、うちのはね、そんじょそこらのブツとは違うよ。出来るだ け役に立たない物を捜して来て売っている訳よ。 . みんな簡単に思っているけど難しいよ、これで。ゴミでも今は、 大事な資源だからな。ゴミでも実用品でも無い物を捜して来て売っ てもらうよ。出来る?」 . 「えっ、そう言いますと、具体的にはどういう物でしょうか?」 . 「それを、お前さんが見つけてくるのよ。」 , 「はぁ、出来ますでしょうか?私に。」 . 「まあ、まあ、だまされたと思って明日からやってみれば。 .. 元手もかからない事だしな。その辺へ行って、役に立たない物を 拾って来て、屋台の上に置いておけばいいんだからな。と言って も、お前さんもまだトーシローだ。この中に二三、マニアルオブジ ェが入っているから、それを明日からモノレールの駅前に屋台を引 いて行て、並べてみなよ。いいかい、いいね。」 . 私は親方に念を押されながら段ボールの箱の中を覗いて見た。 . その中にあったのは、ほとんどがプラスチィック製の、失敗した 折り紙細工のような物や、何かのねじまがった部品のような物、そ れに動物の剥製を繋ぎ合わせた物のような塊が入っていた。 . 「むむっ。」 . 私は声を無くして、しばらくその“どうでもいい物”を眺めてい た。 . 「なんか、やってみようかな、二三日。」 .「そうかい、それじゃぁ、売り上げの三割は俺が頂く事にして、明 日から来てくんな。」 . 「はい。」 . 私はその場ではその気になったので、路個の母親がお茶を出して くれたのも飲み終えず、路個との母親の様子を見て来るように、と 言う約束も忘れてしまって、そそくさとその長屋を出た。 ..あんな物がうれるのかねぇ。そう思ったが、しかし、これはどう いった文脈の商売だろう。ひょっとしたらあの親方も、とんでもな い重症のプッツン様かも知れない。でもそれはそれなりに商売にな り、あんな汚い長屋でも路個の母親を囲って生活ができている訳 で、まぁ、少し小説のネタでも捜す位の気持ちでやってみてもいい かな。 . そう思い直してモノレールのホームのベンチで、二子不二の暮れ て行く、二つの赤い妊娠した女の胸のような、すべての理屈をなぎ たおすような生命力のモニュメントを眺めていた。 其の弐 . 次の朝、私は早々と、そそくさと、親方の所へ行き屋台を引っぱ って駅前で店を広げようとしていた。 . もらった段ボールの中の絶対不要物を大事そうに屋台に乗せてみ た。 . 「これいくら?」 . 突然、後から声がして中年の男が立っていた。 . 「こっ、こっ、これですか?」 . 私はなんの精神的準備もできていなかったので、ニワトリのよう な返事を返してしまった。 . 「ん〜、36。」 と言ってしまった。 . 「ふん〜。相場よりは安いようだけど、もう少し安くならない?」 . 「じゃぁ〜、今日は俺の誕生日だし、30でいいや。」 . 私は適当な事を言って男の顔色を見た。 . 男は私の気が変らないうちにとでも言うように、包みますよと言 う私の言葉も聞かないで、そのプラスッチク製の出来ぞこないの折 り紙細工を、30万円をポーンと屋台の上に置くと、通勤カバンの中 へ捩じ込んで、走り去るように行ってしまった。 . 「ぐはぁ〜。なんじゃこれ。」 . 私は朝起きて顔を急に殴られたようにフラフラして、残りの商品 を眺めていた。私は確かにこれが商品であることを実感した。 . なんの思考も沸いてこなかった。 . 駅は親方の長屋から歩いて5分位の所で、その家のあるラーメン 町は、むかし、くろがねエミのいたバーのある所で、私も正月に買 い出しに来るくらいの下町だ。ラーメン屋が多い事と、町の通路が ラーメン構造のように入り組んでいるためその名があった。 . ここに住む人達は、このあたりでも一種独特の文化を持っていて 習慣も我々とは少し異なっていた。経済活動も実験的なモデルケー スとして特殊な法政がひかれ、それは“よろこび主義”と呼ばれて いた。町民は出来るだけ労働しないように指導され、労働時間の短 い順に高額な報賞金が支払われた。もし金を受け取って労働してい た事が分れば、“倍返し”といって2倍の返還金が要求されるし、 払えない場合は命がけの炭坑での労働が待っていた。そんなに働き たければどうぞ、と言う訳である。 . 労働してはいけないだけではなく、酒と散歩が禁止されていた。 それだけである。あとは何をやってもよかった。 しかし、普通それは守られなかった。普通人は働かなければ酒を飲 むのである。勿論、労働とは何かを作る事だ。従って我々が趣味と 呼ぶ一切の創造行為も禁止されていた。 . 大多数の人々は毎日グルメとセックスと寝る事に明け暮れて家の 敷地から出る事がなかった。 . その中でも少し想像力がある少数の人達は寝る時の夢見におい て、人体遊離的な散歩を密かに拡大して、やがてそれは、かくれ文 化的に洗練されて行った。 . そんな訳でこのラーメン町の上空には“よろこび主義”を徹底さ せるために、絶えず無人飛行機が飛び交い、我々の行動を監視して いたのだ。 . この頃では違反者も多く、働く奴らも増えてしまったので、働か ない善人を守るために偵察機もどんどん増えて、ついにはこの町の 空は戦争末期の敵機大量来襲のようになって、初めのツカミで書い たように飛行機柄の子供のパジャマに成ったのだった。 |
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