

ゆめつなぎ 1-1 by そらしま
其の壱 . 友人と私は、共通の友達、猪俣の住んでいる山奥の部落の前まで来ていた。 . 猪俣は迎えに来てくれていた。一緒に山の中腹の彼の家まで険しい山道を登った。 . そこにあったのは崖にへばりつくように立った6畳一間の茶室のような小屋だっ た。 . 部屋は回り廊下で囲まれており、まん中には炉が切ってあった。開け放たれた障 子の前方には被いかぶさってくるような岩山が見える。 .. よく見ると炉にはガラスで蓋がしてある。おずおずと近ずいてみるとその穴の 下、遥か彼方に紅葉で彩られたエメラルド色の湖が見えたのだ。 .. 我々は、この高さと完璧な美しさに酔っぱらって、旅の疲れも手伝ってか、うと うととして、なんとこの夢の中で眠ってしまったのだった。 . . . しばらくして目覚めた時には友人は何時の間にか消え失せていて、猪俣は私にお 茶を勧めながら彼の見た昨日の夢の話をした。 . 「いやぁー驚いたよ。なにせ下の村から、ここまでの道には先ほど来た時に見ら れたように、ぬかるまないように鉄板が、敷きつめてあって、時々その鉄板を利用し た超伝導車が日常品などを届けてくれるのだが、昨日は山仕事などの軽トラなどが道 を塞いでいて、なかなか上がってこられずにいた所へ、山火事なども重なってとうと う登山中止ということで食料が一ヶ月ほど届かない結果になり、たとへこれが夢でも 一ヶ月も飲まず喰わずでは色の付いた夢も見るに違わず途方にくれてたよ。」 . 「へぇー、夢のようなこんな所でも現実は厳しいね。」 . と私が言うと . 「いやいや、一番夢らしくないのは夢の中で君のように、寝たり起きたりするこ とで、しかし、もっとも我々の日常だって色々な妄想をしているうちに日が暮れて 叉、眠りにつくといったぐわいだけどね。ぐぁははははー。」 などと言い . 「それに今はテレビなどと言うものも、つけっぱなしで、もう日常ほとんどが夢 に近づいている訳ですよ。」 .. そんな彼の説教好きがこれから始まりそうだった。私はそろそろ帰り支度を始め たのだが、又、あの山道をおりなければならないのかと思うとどっと疲労感が襲って 来きた。 . 「ところで君は当分ここで暮らすつもりかい?」 . 「いやいや夢に当分と言うことは無く、現実でさえ何時どうなるか分らないの に、どうして夢にそれができるのかい?」 . 「なるほど、では私もそのつもりで今度、君に逢いたくなった時には四方八方を 捜す覚悟でいましょう。」 .. そう言い残して私は重い腰を上げたのだった。
. その山の道は鉄板がツルツル滑って下山には向いていなっかった。途中、小さな 宿場のような村落があった。 . 駄菓子屋に、ばあさんの店番がいた。このあたりは、ばあさんの土地らしい。店 の前に広い平地が行き止まりの崖まで延びている。 . なんとその途中に大きな客船のスクラップと錆びた旅客機が無造作に放置してある。 . 客船の大きさから言うと風景のパースが変だけど、夢のセットだと思えば、どう ってことはない。気にしないで私は前へ前へと進んで行った。 . 「うぉ〜、うーうー、わん、わん、わん!!」 . 突然、ドウベルマンのような犬が駆け寄って来た。唸っている歯は銀歯になって いてよく切れる刃物のようだ。私は震え上がって、血の臭いを連想した。 . 「うぉ〜、うーうー」 唸っている犬。 . 「うぉ〜、うーうー」 . それにうなされている私のうめき声が一体化して、私はいつの間にか犬になって いた。 . 「うぉ〜、うーうー、わん、わん、わん!!」 . 「うぉ〜、うーうー、わん、わん、わん!!」 . 私は銀歯の犬になって吠えながら、そこらをうろついていた。 . 目の前に銀色のネズミの屍体があった。 . ガブリ、飢えていた私はそれをくわえて走り出した。 . 「ピロピロピロ〜」 . 突然、ネズミはシルバーメタリックの携帯電話になって鳴り出す。 . 「もしもし」 . 何ごとも無っかたように私は電話の相手と話出す。 . 私は知人の女Aに女の住む街に来てくれと呼び出された。 . その街はその女の信じている宗教団体の創った未来的なメガロポリスであり理想 郷だ。 . 「ん〜。」 . あまりのる気で無い私は躊躇しているその刹那、女と私は、既にそこにいた。 . ここは、すべてが人工的で清潔でSF的だ。 . 明るい街の中にはプラスティク製の日用品にも芸術にもなり得ない白痴的なオブ ジェや幾何学模様が氾濫しており、それらはむしろ教養や美を超えて真理化してい た。 . 私はこのむかつく虚無な言葉や理論を超えた恐ろしく底なしの明るさの中に一 時、立って居られずにしゃがみ込んだ。 . 女はここで団体の仕事をして衣食住を無償で与えられ、好い生活が出来ているよ うだ。 . 「まだ少しやり残した仕事があるので先に私の部屋に行き、待っていて欲しい。 住所は聞けばわかるから。」 . 女は巨大な白いロビーの螺旋階段を登りながらそう言った。私は素直にうなずい てロビーの隅のインフォメーションの女の子に、その女の住所を聞き出そうとした。 . 確か街の西区だったような気がすることも告げた。受け付けの女の子は検索して いた住所画面からモノレールのような乗り物が止っている乗り場を指差した。3人乗 り位の乗り物には他に2人の人が乗っていた。 . それが動きだし街中が見えて来た。郊外へ行けば行くほど中心のSF的な建物とは 対称的な古めかしい工業地帯といった所にとって付けたように大きな公園が点在して いた。途中、まだ工事中のような所も見え、巨大な大木に、なぜか葉っぱをつける工 事が行われていた。 それは丁度、3Dお絵描きソフトで木を作るように、透明な塊に葉の写真をマッピン グして葉っぱの塊を作って枝に指したといったふうで、それが巨大なクレーンを使っ て行はれていた。 . 又、少し進むと道ぞいに流れる運河の中の大きな鉄のスクラップや、道のまん中 に有る風で倒れた大きな木などを我々の乗った乗り物の運転手はボタン一つでマジッ クハンドのような物で移動して、さもこれは日常的なついで仕事でもあるかのように 作業して道を進んで行くのだった。 . そうしているうちに、どうやら、やっと終点のターミナルに着いたようだ。みん な降り始める。私も降車してその駅のロビーに降り立った。ここは少し賑やかでザワ ザワと人々が行き交っている。 . その人通りの中から異様な風体の小太りの男が親しげに近づいて来る。 . 「私は貴方に何時か殺されたBという者です。覚えていますか?」 . その男はよく見ると蝉の抜け殻のようなメタリックな半透明のカプセルのような マテリアルの体をしていた。 . 「あっ、ああ、はい。」
. 私は知らないと言うのも変だと思い、とっさに間抜けな返事をした。男としばら く並んで歩いた。男は自分だけ駅の売店のような所で食べ物を受け取って食べながら 私と親しげに話すのだ。 . 「でも、君、なんか幸せそうじゃないか。」 . 私はお世辞とも言い逃れともつかない、とぼけたことを言った。 . 「幸せ?こんな空っぽの体でかい?」 . 男はそう言った。ほんとうに男の体は空だ。これは洒落でも何でも無い。それは 死者を表現していた。私はいたたまれない気持ちで男と別れた。そのシーンはフェイ ドアウトして、やがて又、私は女の家でテレビを見ながら女の帰りを待っていた。 . 「ピンポン〜」 . 呼び鈴とともに目が覚めた。 . 「ヤ◎トですが、今日はいかがですか〜?」 . 私は玄関のドアを眠い目を擦りながら開けるまでの数秒間で、今見た夢をリセッ トして財布を取り出さなければならない。ヤ◎ト販売員は出来るだけ容姿端麗である のが鉄則の営業秘密だ。 . 断わるのも、めんどくさい。というのもセールステクニックなのだ。商品単価 を5、600円にしておくのがいいのだろう。いやいや、そんなことはどうでもいい。 . 予めその範囲でパックした物を受け取って、又、ベッドに倒れこんだ。
|
..