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![]() .き . . 又、遠くに台風が来ているようだ。晴れているが蒸し暑い風が吹いて来る。 . 窓の隙間から入る風で人形達が激しく回っている。 . 中央にあるハイヒールをはいた水カマキリのような人形がとくに激しく動い ている。 . 崇はセツと日枝のところで待ち合わせて、先に来て何処かへ散歩にでも出て いるであろうセツと日枝を日枝の部屋で待っていた。 . ヘア−ドライヤーからの風のような熱気が部屋に渦巻いている。 . 階段を人が上がる音がして間もなく二人は帰って来た。 . . 「あらららら、崇君来てたの、ごめん、ごめん。ちょっと浜を散歩してた のね。日枝さんが最近外へ出て無いというんでね。気晴らしにね。」 . 「そう、日枝さん、今日は。」 . 「ああ、お前、よく来たね。僕らは気が合うね。」 . 「ええ、そうですね。気が合いますよね。ああ、これ、横須賀のベースの前 で買って来たタコスとカンパリソーダのカンパ。」 . そう言って崇はタコス入りのボックスとクーラーバックを机に置いた。 . 「崇君の駄洒落よりも、日枝さん車で何処かへ行きたいみたいなの。そのお 土産持ってドライブに行ってみない?」 . 「お前達の車に乗ってみたい。お前達の来るの待っていた。」 . 「ええ、いいですよ何処か行きますか。だれの車にしますか。」 . 「崇君、さっきも日枝さんと話したんだけど、私の車で剣崎へ行ってみな い? 崇君も乗せてみたいしね。剣崎は日枝さんの“屋根のない僕の家”なん ですってよ。ちょっとキザでしょ。」 . 「ああいいよ。セッちゃんの車でねぇ、だけどあそこ道狭いから大丈夫か な、運転。それにセッちゃんの車でかいでしょ、下の浜まで行くかな。」 . 「ハマらないから大丈夫。駐車場あるの?崇君、あそこ。」 . 「ああ、あるにはあるんだけど漁師のおじさんがやってる。」 . 「よしよし、行ってみようよ。大丈夫だよ。このタコスランチ持って。」 . セツは楽天的に言った。 . 三人は浮き浮きとセツの中古のBMに乗り込む。 . 日枝はなんだか大きなズックの袋を持って乗り込んで来た。 . 崇は道案内のため直に前の席に着いた。 . 日枝は後の席で袋の中をごちゃごちゃと音を立てて掻き回している。 . . 「セッちゃん、ますっぐね。武山の自衛隊のところを左ね。」 . 「日枝さん、ずーと篭って人形作ってたの?」 . セツがルームミラーを見ながら言った。 . 「作ってない。人形の子守りをしてた。記録してた。」 . 「あら洒落もおじょうずなのね。」 . すましてセツが言ったのでとなりの崇だけが大笑いした。 . 「記録って、日記に?」 . 「そうだ、赤いノートだ。終わらない日記だ。」 . 「セッちゃん、日枝さんは閉じ篭るんじゃなくて何処へも行けないだけ さ。世界が自分の部屋だからね。他にどこ行いけばいいのよ。」 . 「やぁ〜ね、そうだったわね。“.屋根の無い部屋”だったわね。」 . . 15分もすると車は武山から三浦海岸へ抜けるスイカ畑の中の道に入り、左 右に海を従えて、右の駿河湾の上に富士を浮かべている。農道をよたよた走る 軽トラを何台も追いこした。 . 「セッちゃん、初心者なのにそんなに追いこしするかねぇ。」 . ドアの取っ手を力一杯握っていた崇がたまらず声をあげた。 . 「坂だからついね。大丈夫だよ。」 . 「初心者マークもつけてないじゃぁない。海につきあったら右目にまっすぐ ね。意味分かる?海沿いに行くて事。カーブした信号をまっすぐって事。」 「はいはい、分かりました。真直ぐ進行。」 . 崇はセツの勘違いも予想して助言しているのだが、セツにはそれが回りくど いらしい。崇の愛情は感知されていない。 . . 三浦海岸はまだ海水浴が真っ盛りで高波にもかかわらず人が出ていて、歩道 で中学生らしき3人の女の子が、ラジカセを鳴らしながらパラパラの練習をして いた。 . しかし、パラパラはダンスというよりもフリの系譜で、それは素人でもすぐ に真似られる日本人のオリジナルな“盆踊りの記憶”を無意識から引き出して いる。 . 「少し前の株式市場みたいね。」 . 「歌舞始期詩情ね。」 . セツが毒っぽく言ったので崇が詩的に返した。 . そんな風景をやり過ごしながら3人は並んだ海の家を左に進んで行くと、少 し外れの所に普段は見なれない逗子風の洒落た海の家が建っていた。 . 丁度信号が赤だったのでしばらくセツと崇はそれを見るともなく見つめてい た。家の周りには配線がやたらと這っていて、派手な看板が壁に掛かっていてお り、照明スタンドが立ち並んでいたので、すぐにそれがTVセットの海の家だと 分かった。 .. スタッフはだれも居なかったので休憩かきょうは休みの日なのだろう。 . 海の家自体が仮設のものなのでそれはべつに違和感はなかったが、仮設の仮 設とは一体どうした存在感だろう、最早それはリアルな気迫といった重量感を一 切持たない希薄な陽炎のような幻に一番近い、それこそ砂漠の蜃気楼なのだ。 . そう別々に崇とセツはそれぞれに思いをはせながら、その前を通過して三浦 半島の最先端の、町からそれた剣崎へと海沿いの路を走った。だんだんと海辺 の田舎風の風景になって民家も見かけなくなって来た。 . しばらく進むと急な坂を登り着いた所の畑の向こうに真っ白い塔が見え た。 . . 「あっ、燈台だ。」 . セツが叫んだ。.
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