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.其の一
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. 金魚はたまに飛び跳ねる魚がいて、朝起きて見ると床で死んでいる事があるのでございました。
. 天敵に襲われた訳でもないので、とにかくそのエリアから抜け出たかったのでございましょう。
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. 吉原の女のように。
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. 牛の日には廓内の四方にある四つの神社の縁日に金魚屋の見世が出ていて、井筒屋の鶴菊は竹筒に入れ
てくれた金魚を本間(自分の部屋)の違い棚に置いておいて、昼遊びの客の帰った部屋から戻ってみると、一
匹が浮世ござ(チェック柄)の上で死んでいたのでございます。
. ひいきの客に惚れた真似をするのにも疲れ果て、かといって女を立てる男気は世間のどこにも見つからず、
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唐草からむ塀の内
なくなく苦労の置きどころ
木戸を開いて逃げようと
ようよう用意も整えて
ととさん、いもうと、おっかさん
重なる八重雲、照る暁の
続く在所への一本道
本身になって語り合う
青梅の家族を目の前に
絵に描く心のいろりの火
のびる下草、雨上がり
明りきらきら玉の川
火の玉、土手に並んだ列は
礼儀正しいきつねの御業と
見当違いは時遅く
ロウソク灯した廓の提灯
町内へとなだれ込む
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こんなところに居たか鶴菊
聞く耳もたねぇ廓抜け
田分けた事を仕出かして
はたして覚悟はあるのかぇ
替えの小指は無いものを
野を越え山越え追いかけて
カケス鳴く鳴く、こんな山里
まさに今、撮り捕まえた
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前にも後にも逃げれぬ道行
勇気も萎えたその時に
遠くに見えた見知らぬ山伏
眩しく光る金剛杵
高所に差し向けつつ言う事に
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. 「おいおい、お前さん達。いったいこんな小娘に、よってたかって手荒い仕打ち、どんな訳かは知らないが、
ここは私に娘の身、預からせてはくれまいか。」
. 「やいやいお前、乞食坊主、どこの馬の骨かは知らないが、これは廓の抜け人で、お上も禁じた御法度事。知
って手出しをする奴は、お縄の覚悟も知ってのろうぜき、怪我をしたくなかったら、さっさとここから引き下が
れ。」
. そこで山伏ふところに、手を入れ若衆頭の前に出て、十両包みを手渡したのでございます。
「若衆方の顔を潰して口を出す道理も法もありません。ここはこの金納めてもらい、私が仮の身請け元。町に
帰りなすれば一つ、娘の事は玉の川へ、身を投げ流れ消えたる時に、残していったこのかんざしと、どうかこれを
差し出して、ここの所は見て見ぬ振りで、金子を納めて下されい。」
. そう言い僧は娘のかんざし、勝手に髪から抜き取り出して若衆頭の前へと出したのでございます。
. 「ほほう、こいつぁ粋な坊主も居たもんだ。とにかく俺たちぁ金になりゃぁ、娘がどこに居ようが知った事じ
ゃねえ。廓に連れて戻ったところで、仕事を終えただけの事。ここは十両山分けで、青梅の旅籠で打ち上げて、明
日ゆるゆる帰るとするか。」
. 「これはお早いお分かりで。どうかそうお願いする。尾山もそろそろ暮れかかり、かあかあ烏も鳴いている、
後の事は宜しくおたのみ申します。」
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. 山伏そう言い残し娘を連れてその場から、そそくさと河原の草原、降りて話しを聞く事にしたのでございまし
た。
. 「娘子よ、無事であったか。勝手にかんざし抜き取って悪い事をしたけれど、ああでもせねば切り抜けられぬ。
大事な物ではあろうがここは、命と引き換えられたと思い赦してくれい。聞けばお前は廓抜け。いろいろ事情も
あろうにな。よければわしに話してくれい。こんな所へ逃げた訳。」
. 娘は娘でこんな女郎の自分に対し、大金捨ててくれたのは何か訳でもあるのかと、逆に聞き返したのでござい
ました。
. 「心配するな娘子よ。私は御嵩山愛染院 みたけやまあいぜんいん
僧籍の空蓮 くうれん と申す者。訳あってここを通り
かかり、お前さんを助けたい一心で、丁度、ふところも暖かく、隠し持ったる金子を投げつけたお人好し、仮に
も私は僧籍の身、人助けは菩薩の道、これも仏縁と申すもの。まぁまぁそう気にせずとも私は私の因果のため
に、仏の導きに従ったまでじゃ。」
. 「そうは言ってもお坊さま、十両もの金子はとても私には返せぬ身の上。在所は青梅の街道沿い、目と鼻の先
ではござりますが、廓を抜けて帰れぬ身、どうぞお察しくだされませ。」
. 「そうかい、在所はちかいのか。それじゃぁ今日の所は家へ帰り、とっさっん、かかさんに顔見せて、郭の手
前ここには住めぬと言い聞かせ、私の寺に訪ねて来るが宜しかろう。悪いようにはしないからな。」
. 鶴菊は見ず知らずの身の上に大金をはたいたこの男に、今晩は従うしかないと覚悟していたのに、その言葉に
拍子抜けし、世の中には自分の生きて来た生き馬の目を抜くような世界とは別の世間がある事に驚き、信心も自分
達の郭で祭っていたお稲荷さまとは思いもよらない別の信仰のようで、興味も湧いたが、今日のところは直にこの
坊さまに従って、何度も何度も手を合わせ、振り向き振り向き分かれたのでございます。

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