ゆ め つ な ぎ  10e-1  月 お ん な (歌舞伎論)

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by  そらしま



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. 能という精進料理屋を出ると、旨そうな蝋細工の文楽という弁当が飾ってあって、

それにつられて歌舞伎という幕の内弁当を食べた。

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 エミと女形“ありんす”の霊は歌舞伎座の三階最前列にいた。

. そこしか空いていなかったのだ。

. 二人とも霊体だから何処に居てもいいようなものだが、知らない変なおばちゃんに

憑依するのも嫌なものですよ、あなた。

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. エミは初めて見る歌舞伎座の舞台がテレビで見るよりも横長なのに驚いた。 

. 三階の席でも首を振らなければいけなかったからだ。

. しかしこれはただ客を増やす卑しい了見からそうなったのではない。

. それだったら花道なんか取っぱらえばいいからだ。出し物によってはニ本の花道、

H 形の道が付く事もあるのだ。舞台中央に川が客席の方へ流れていて、それは両岸の

堤防なのだ。向こう岸とこちら岸の役者が客という川を挟んで芝居をするのだ。

. 首を振り回す位は歌舞伎見物の常識なのだ。これはバーチャル感の仕掛けなのだ。

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. そして次ぎに驚いたのは回り舞台だった。勿論TVではよく見かけてはいたその仕

掛けは、実際に町がグルグル回っているのを目の当たりにすると、それはもうそれだ

けでアートだったのだ。

. 「だって、ある町内だけがグルグル回っていたら誰だって驚くでしょ。」(エミ)

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. だがそれもただ単に大道具の建て替えの都合の装置ではなっかった。心理的な天国

と地獄が裏と表で廻されながら表現されるのだ。

. 役者もまた回っている町内を歩きながら散歩して裏の家を訪ねたりするのだ。

. これら演劇空間は世界でも類を見ない。

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. 前の話しに戻るが歌舞伎の舞台空間は能や文楽とは違いダイナミックで細長い。貧

乏人の小屋も妙に間延びして、少なめの小道具が散らばっていても三階から見ると日

本画の繪のように清楚なのだ。どんな場面でも広々としたすっきりさが気持ちいい。

. しかし書き割りは思ったよりもペラペラでそれが逆に役者の立体感を引き立ててい

る。

. 能舞台のように開かれた内部ではなく夢の箱として閉じられている。客の夢を囲っ

ている。役者の花道からの出入りも客の夢からの出入りのように見える。

. そこから役者が見栄をきりながら出たり入ったりするのだ。

. 「あら、あら昔お祖父さんが写真取りますよって言うと硬直してしまったよう

ね。」(エミ) 

. 歌舞伎では何よりもスター性だ。スターが立体的な浮世絵にならなければいけない

のだ。“絵になる”事が大事だ。その事が全てに優先する、そのためのストップモー

ションなのだ。それは拍子木で太いアクセントがスッテッチされて縁取られる。

. ここを写真で撮れぞとばかりに強制しているのだ。

. 「だってスターの方が大事よ、それがエンターテイメントだもの。」〔エミ)

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. それにエミはリアルな芝居が急に七五調の演技に変わるのが好きになった。

. それはリアルな絵が急に抽象画になって、又リアリズムに一つのキャンバスの中で

変化して行くように現代的だ、ポストモダンなのだ。

. ここではいわゆるリアルなんて誰も求めていなかったし信じてもいなかった。

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. エミ達の入場した時は“四谷怪談”が上演されていて薄暗く殺伐とした話だが悲

惨にならないようデザインされていて、最後にはダークな背景緞帳の落ちた明るい

川辺リの土手の上で、大見栄をきったスター達が光り輝いて等間隔で並んでいたのだ。

. 「歌舞伎では悲惨なものも最後の最後にはからっぽになって、ポップアートと同じ

になるのね。」〔エミ)

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. 歌舞伎はあらゆるところからの引用、借用で出来ていて、それこそポストモダンな

コラージュだった。

. 能や文楽からの同名の筋も多く、過去の伝統を引きずってもいるが、それは唯々客

のニーズに答えるためだ。能や文楽の客をも吸収するためだ。

. 面白くしなければいけない。町人の客を離してはいけない。難しい演劇理論など初

めから持たない。そこには楽しませる技、伎があるばかりだ。

. 昔は客の盃を客席から貰って飲んでいたらしい。急に芝居を止めてニ代目を客に紹

介したりするのだ。初めからブレヒト的なのだ。今でもその雰囲気は軽演劇で見られ

る。客のくれた紙幣を体に貼って踊りを踊るのだ、もともとそう言うものだったの

だ。

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. だがエミは又別のところに注目しだした。女形だ。

. 人形芝居が出来て来た初期には女操り師がいたようだ。初期の歌舞伎も女性を中心

とする女歌舞伎だった。だが風紀を乱すとの理由でそれが禁止され女形の必要性が

生まれる。しかし初期のように女を女が演じたらどうだろう。

. 例えば新派のように女役を女優が演じたらどうだろう。これが今となっては面白く

無いのだ。歌舞伎から女形を取ってしまったら普通の時代劇になってしまうのだ。

. おやまを誰もほんとに女だと思っては見ていない。見るからにおじさんだ。ゲ−バ

−の面白さに似ている。これは女のデザインだ。女をデザインするには男がやるしか

ない。

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. エミもとなりにいる“ありんす”に聞いてみる事にする。

. 「ねぇ、ありんすさん、女形って不思議ね、女優にしてしまうと突然面白くなくな

るもの。唯の時代劇になるのよね。」

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. 「エミ姫、そこまで見ようとすれば

.  昂の星も輝き白く

.  しらざぁいってきかせやしょう」

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.  「まってました! まちがえるなよ!」

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.  「女形を男と知らぬ

.  しらけた町衆いねぇように

.  客の醒めた目、身に受けて

.  芝居を見せる身の上は

.  上弦の月もおちこちのおぼろな雲を乗せ描き

.  客が悲しさ身に受けてドップリ入らぬ女ふり

.  振出す片足いつもしゃ場、巷の隅にあるように

.  四谷怪談でたとえれば

.  えれ〜きれぇな女じゃ悲惨

.  ひさごで酒を酌み交わす

.  川州の洒脱な江戸っ子の

.  根にユーモアの生死感

.  観じて夢に帰すよに

.  世に洒落た人情模様」

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. 「そらしま屋!!」

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